ちょっといい話

香穂の学校にディビットという男の子がいます。実はこのコは香穂の1学年上のドラム担当の同じバンドのメンバーです。彼が中学3年、香穂が中学2年のときの話。渡が放課後のバンドルーム(音楽教室)に進入して、ドラムを練習中のディビットの邪魔をしました。ディビットは、何よりもドラムを大事に扱う子供で、ドラム自身、とても大事にしています。怒ると怖いので、みんなわりと彼に気をつかっていました。ところが、渡は、そんなのおかまいなしに、ディビットのドラムを大太鼓をたたく、でっかいヘッドのついたバチでガンガンと叩いてしまった。私は、まっ青。渡を怒ろうとしたその瞬間、ディビットが、渡に、
「おい!これ使えよ」
とすぐに自分のステックを貸してくれて、すっと立ち上がって、席を譲り、渡にドラムを叩かせてくれました。
渡が好き勝手たたいていると、しばらくしたら、ディビットは、渡が緊張しないように、なんとなく、離れた所に立ってシンバルを叩いて、渡のドラムに合わせてくれました。渡は、あいかわらめちゃくちゃだったのだけど、シンバルがなりだすと音の調整もうまくゆき、なんとなく、うまくできました。渡は、最後には、ステックを上にあげて、
"イェイ!!”
と叫んだ。この日から、渡は、打楽器が大好きになりました。
随分前に、香穂には、
「ディビットには、昔、渡が、お世話になったので、よろしく伝えて」
と言ったのだけど、彼は、わりとシリアスな顔をするので、ちょと近よりがたいらしい。ところが、香穂は、今日、彼と話す時間があったらしく、思いきって、数年前の話をしたらしい。そしたら。あのディビッドの顔が、くしゃくしゃに笑って、香穂の表現によると、
「3歳児の子供に世界一好きなお菓子を上げたときの顔」
になって
「すごいなぁ・・。すごいなぁ。香穂、ごめんね。俺、あまり覚えてないんだけど、よかったよ。渡、ドラム好きなんだ。どこかで教えてもらえないかなぁ。いやぁ。。よかったなぁ・・。続けられるといいよなぁ。よかったなぁ。ドラムは、ほんといいぜ。」
と我がことのように、喜んでくれたそうです。もちろんディビットは、渡が自閉だとわかっています。香穂もディビットのあまりに喜ぶ顔をみて、
「あっ。話してよかったなぁ」
とおもったそうです。
なんか、いい話を聞かせてもらった日でした。