水泳の飛び込みの授業

渡は水泳の授業を取っています。初心者の水泳のクラスです。初心者と言えばなんだか簡単そうなのだけど、内容は濃い。クロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、立ち泳ぎなどメインのすべての泳ぎ方を学びます。オリンピックの種目みたい(笑)
さて、今回は、前回に引き続き、飛び込み。前回は、プールのエッジから飛び込む練習をしましたが、これも初心者には大変難しく、みんな緊張しまくっていました。渡も飛び込みは足からはできますが、頭からはできませんでした。緊張しまくってました。
けど、なんだかんだと
「しらーーっ。」
と、一番綺麗なライフガードジェシカちゃんにくっついて、なんとか頭から飛び込めるようになりました。

今日はこのセッションの一番高いハードルの
「飛び込み台からプールに飛び込む」
の練習です。これはさすがに大変。水泳選手がかっこよく飛び込んでいますが、あれも多くの練習をしたからできること。ライフガードも総動員で、初心者の飛び込みを手伝います。私も渡が参加するので、何か起こったときのなだめ役として、プールサイドで待機。
先生が
「誰か、ボランティアはいませんか?」
と最初に飛び込む人を募ります。
みんな、
し〜〜〜〜ん.......。
もう雰囲気は緊張しまくりで、ビンビンに張りつめてますっ!!っていう感じです。

誰もいないので、先生が上級者クラスから一人つれてきた子に、見本となって飛び込むように指示しました。
上級者クラスの子は、この雰囲気が苦手なようで、皆に
「そんなに飛び込みって大変じゃないよぉ。」
っていうことをいいながら、飛び込み台からくるくるとまわりながら飛び込んで、水深4.5mの奥底へと消えて行った。
うっーこれは、、、、。
と私が思った通り、初心者達は、さらに緊張。飛び込みができても、次に回転をさせられるのでは?という恐怖感がプールサイドを覆っています。
もう初心者の生徒のグループは、南極の氷のように固まった空気が。ふるえている子までいます。渡はこういう雰囲気は苦手です。
パニックを起こさないか?と心配な私。

先生も
「見せびらかすんじゃないわよ!!!」
と上級の子に言ってましたが、
「次に誰かボランティアで飛び込む子は?」
と初心者グループに聞きます。
そりゃ、難しいよ。けど、飛び込まないと授業は終わらない訳で。
もう雰囲気は恐怖感でいっぱいに。そんな中、一人、すっと手をあげた生徒がいた。みんなのどよめく声がした。
すごっと思ってみると、
えっ、渡じゃん!
ありえない!!手をあげる意味が解ってなかったかも。たぶん、この初心者の中でもあなたが一番頭からの飛び込みは下手だよ。

先生もライフガードの人たちもそれは解っているので、今度は先生とライフガードの人たちに緊張が走った。先生は渡に
「じゃ、やってくれる?」
と言いました。ライフガードは、救助の為に飛び込む準備を開始です。

すたすたと飛び込み台にあがる渡。先生が、口頭で指示を出します。
「まずは体をまっすぐにして。両手をまっすぐにあげて頭の上で手の甲と手の平を合わせて。そう、まっすぐに立って!」
渡は指示された通りまっすぐに立ち、両手をまっすぐにあげて、手のひらと手の甲を合わせています。まるで杉の木のようにまっすぐな渡。渡の背中に突き刺さる60個のふるえる瞳。みんな超緊張。
「渡、大丈夫か?」
という心配もあるよう。クラスメイトは渡の知的障害は理解していますから...。

その氷のように突き刺さる視線を背中いっぱいに受けている渡は、なんと、
お尻を左右に5回振った。

みんな大爆笑。先生も笑いながら、
「じゃ、渡、頭を下げて、かがんでゆっくり飛びこんで。」と言われて、フォームは崩れたものの、無事に飛び込みました。

これでみんなの雰囲気がとても明るくなり、みんなが笑顔で、次から次へとどんどんと飛び込む。


ところが、プールからあがってきた渡は、ゴーグルを手にもっている。どうも飛び込んだ反動で、ゴーグルのゴムが切れてしまった模様。自閉症の人は
「物が壊れる」ということが嫌いな人が多いのも特徴。えっー、せっかく飛び込んだのにパニック?と思ったけど、ここは親がでていい訳はありません。私はあくまでもどうにもならなかった時の為の控えですから。

ところがプールからあがった渡は、すたすたと一番お気に入りのジェシカちゃんのところに歩み寄り
「ゴーグルが壊れたんだけど....」と説明しています。ジェシカちゃんは、
「渡、Good Jobだったわね!あっ、これは直るわよ。」
とすぐに直してくれました。

渡はジェシカちゃんにお礼と言うと、突然親指を上に向けて、たどたどしい言語で、
"It is great day, today!"(今日はすばらしい日だ。)
と言っておりました。ジェシカちゃんにも
「そのとおりね。」と言われ。

先生には
「渡が一番水泳の楽しみ方を知ってるわね!」と褒められています。
万遍の笑みになる渡。
ほんといい日だったね。よかったね。